ドブの底

汚い

残映

 風は湿り気を帯びていた。山と山を割るように幅の広い川が流れ、その上流の表面を撫でた風は山中を行きつ戻りつしながら空気を冷やす。太陽光に滴る汗も、蝉の声を含みながら通り過ぎる風がすぐに乾かした。

 山腹を切りひらいて平らにした土地にぽつりと工場があり、周囲の木々に似合わない機械のうなり声を辺り一帯に響かせていた。自動車会社の下請けとはいっても、はたして工場で製造される部品が自動車のどこを構成するのか、勤め始めて二年経ついまでも高梨充にはわからなかった。

 太陽が天頂から大きく西に傾いて、ちりちり揺らめく陽炎をつくっていた。灰皿代わりの空き缶に、そっと煙草の灰を落とす。工場でのせせこましい仕事を終えると、時間の流れを教えてくれるのは一本分の煙草の燃える早さだけだった。

 背後の自販機が缶を吐き出す音に振り返る。

「高梨、お疲れ」

 工場での上司にあたる山本浩介が、缶コーヒーを手に立っている。

「お疲れさまです」

「さま、はいいよ。工場を出たら上も下もない、ただの元同級生だ」

 一本恵んでくれと言う山本に、煙草の箱を差し出した。

 山本は三年前に結婚し、今は両親と妻、そして去年の冬に生まれたばかりの娘と五人で暮らしている。娘が生まれたのをきっかけに妻から禁煙を命じられているらしい。しかしたびたび、充からもらい煙草をして煙を吸ってはうまいと言って笑う。

 充も二本目の煙草をくわえて火をつけた。仕事を終えた体に、煙がすっと染みてゆく。

「こっちでの暮らしにはもう慣れたか」

「慣れるもなにも、俺はここで生まれ育ったから」

 充が生まれる数年前に大規模な市町村合併があり、かつて村だったその高原地帯は、地図の上では市の一部へと変わった。しかし山と山の隙間にぽつぽつと点在する集落を、「村」という括りでなんとか一まとめにしていた場所だ。市に吸収されたところで実際の生活は何一つ変わらなかった。

 高原といえば柔らかな草木と風、そしてよどみなく澄み渡った空気を思わせるが、そこはどちらかと言えば山脈に近かった。数年に一度ほど、街での暮らしに飽きた、田舎暮らしに憧れる若いカップルが引っ越してきた。しかし集落の家のほとんどが、何年も前からずっとこの土地で暮らす者たちだ。街からやってきた若い人々を、土地の者たちが好くことはなかった。少子化と過疎化を問題視し、地域の活性化を唱えながらも新しいものを拒む姿は、滑稽としか言いようがなかった。

 充は土地の者の家に生まれた。

 小学校から中学校までクラス替えもなく同じメンバーで過ごし、ほとんどの者が隣町の公立高校へ進学する。高校卒業後は地元で就職し、若いうちに地元の者同士で結婚して家庭をつくる。それから後は、時間の流れと共に体が朽ちるのを待つだけだ。そんな人生の地図から充がはみ出したのは、もう何年前か。

 充は同性愛者だった。なぜ自分がそう生まれたのか、なぜ自分なのか。繰り返してきた自問は、体が男の形になるにつれていつのまにか消えていった。

 東京の大学へ行きたい、と充が話したとき父は鬼のように怒り狂った。

「大学なんぞいって何になる。金は一体だれが出すと思ってるんだ。そんなにみんなと同じように暮らすのが嫌か、そんなにこの家が嫌か」

酒臭い息を吐く父に、そう吐き捨てられて頬を殴られた。

――同じようには生きられないんだ。

 腫れた頬が鈍く痛むたびに腹の中でつぶやいた。自分の性を隠さなければ生きられない場所で、木々に囲まれた狭い空に押し潰されたくはなかった。あの頃は土地と自分を繋ぐ鎖など簡単に断ってしまえると思っていた。

「見ろよこれ」

 煙を吐きながら山本がスマートフォンを差し出した。

「パパ、って言ってんの。わかるかな、ほら」

 画面の向こう側で、子犬のように動き回りながら女の子が何か話している。

「うちのガキだよ。これは将来べっぴんさんになるな。頭もいいし」

「そういうの親ばかって言うんだろう」

「親ばかの大馬鹿でいいさ」

 いつのまにか、かつての同級生はみな人の親になっている。わかりやすい年齢の物差しに、努めて気付かぬ振りをしてきた。

「子供はいいぞ。守る者がいるとなんでも頑張れる気がしてくる。だから高梨もはやく咲ちゃんと一緒になって、おふくろさんを安心させてやれ」

 山本の横顔を盗み見た。かつての同級生でも工場の上司でもない、父親の顔だった。

 

 

 工場から帰ると家の前に自転車が停まっていた。咲の自転車だ。

 玄関まで食事の匂いが漂っている。台所から響く母と咲の話し声を聞きながら浴室へ向かう。油の匂いの染みついた作業着を脱いでも、軋む体のあちこちから工場のくすんだ匂いが立ち上った。

 

「いつの間に帰ってたの。ただいまくらい大きな声で言いなさいよ」

 シャワーを浴び終えて上裸のまま浴室から出てきた充に向かって、母が食事を卓へ運びながら言った。祖父母の代から住んでいる家はあちこち染みだらけで、歩くたびに浮いた畳が小さく鳴き声をあげた。

「おかえり」

 咲が母を手伝いながら充に言った。もう見慣れたのか、年相応にだらしなくなった充の胸や腹を見ても咲は動じない。傍から見たら家族三人の団欒風景に映るかもしれない。

「もうちょっとでご飯の用意終わるから、先にお父さんたちに手を合わせてきて」

 母に促されるまま仏壇の前に胡坐をかいた。古くて狭い家には仏間はなく、居間の隅に仏壇がひっそりと置かれている。祖父母と父の眠る場所だ。

 白黒になった父の顔は穏やかだ。言葉よりも先に手が出た男の面影は少しもない。これが父の本当の表情だったならば、結局互いの腹の内を一度として見せ合うことのなかった親子だ。

 東京の大学を出た後、充は定職に就くことなくアルバイトだけで生活していた。ひとつところに留まらない生き方こそが自由だと、本気で信じていた。三十歳に手が届く頃。さてこれからどうしようかとぼんやり考えているときに、父が心筋梗塞であっけなく逝った。酒と煙草の多い男だった。母からの報せに急いで実家へと帰り、父の死に顔を見た。両親など生まれた土地と共に捨てても構わないと思っていた充も、肉親の死を放っておけるほどにはまだ根無し草になれていなかった。「もういいでしょう、帰ってきなさい」。葬儀を終えた夜、母が泣きながら言った。どれだけ父に強く当たられても決して涙を見せなかった母だ。その母の涙が充を生まれ育った場所へと連れ戻した。

 魚の煮付け、赤だし、漬物が食卓に並んでいた。髪に白いものが目立つようになった母は、以前にも増して質素な食事を好むようになった。家事をしてもらっている手前、料理に文句はつけられない。

「今日ね、図書館で保育園の子たちへの読み聞かせがあったのよ。相手が保育園児だから、どんなもの読み聞かせたらいいのかなってずっと迷ってたんだけど、私びっくりした。私たちが子供の頃に読み聞かせしてもらった絵本が、まだ図書館にあったの」

 集落にぽつりと立っている図書館で働いている咲が、少しの違和感もなく高梨家の食事を共にする。母は、咲のことをもうほとんど家族みたいなものだと言う。咲が話す子供たちの話を、まるで自分の孫のことかのように楽しそうに聞いている。

 同じ山間の集落に住む高梨家と山中家は、親同士の年齢が近かったこともありずっと家族ぐるみで交流をしてきた。夏には川べりでバーベキューをし、冬には充の家の裏に、大人が二人も入れるくらい大きなかまくらをつくったこともあった。子供の少ない田舎暮らしのなか、互いの両親が二人の姿の行く先をどのように願っていたのか、いまならば少しは想像ができる。

「みんな真っ直ぐに育つといいんだけど」

「そんな楽しい話を聞いちゃったら私、孫の顔を見るまでは死ねないって思うわ」

 なんだかいかにもおばあさんみたいな発言しちゃった、と母が湯呑に手を伸ばす。手元に視線を落としながらも、視界の端で充の表情の動きをとらえようとしている。そんな母の仕草に気付かぬよう努めるのも、同じ屋根の下、親子二人で暮らすために必要な距離感だった。

 母と幼馴染の咲、そして死んだ父にも、充は自分が同性愛者だと告白しなかった。集落を出た日、嘘で身を繕う日々と決別したはずだった。父の死によって再び生家に戻ってきた皮肉に、笑い出したくなる。

 

 

 母が紙袋を充によこした。

「咲ちゃんを送ってあげて。これは咲ちゃんの親御さんにお土産」

 袋の中には、先週母が書道教室の旅行でいった温泉地の土産物が詰まっていた。

「送るもなにもいつもの道だろう」

「あんた、男なんだから」

 玄関先で二人のやりとりを見ている咲のもとになかば押し出されるようにして、充は夜の暗がりに踏み出した。

 高梨家と山中家が同じ集落にあるとはいっても、家同士が隣り合わせになっているわけではない。山道を抜けて坂を上るのに歩いて十分、車ならば二分ほどの距離だ。

 山間から見える夜空には涯がない。星の散りばめられた紺の布地は、山の影が天地の境界を消してどこまでも広がり続ける。ふわりと落ちてきそうなほど軽やかな空だった。

「そんなに毎回、お土産とかくれなくたっていいのに」

 自転車を押しながら咲が言った。母がそうするのと同じように、時々咲の母も土産や漬物を咲に持たせる。歳をとった親たちはもう以前のように互いの家を行き来することは少なくなり、代わりに息子と娘におすそわけの品を持たせるようになった。集落が寂れゆくのと等しい速度で、親も老いたのだ。

「お兄さんのとこ、予定日はいつだったか」

「九月だから、もうすぐ。お義姉さんのお腹はもうかなり大きいの。きっと生まれてくる赤ちゃんとおんなじ大きさ」

 咲は両親と一つ歳上の兄、そして二年前に嫁いできた兄嫁の五人で暮らしている。去年の末に咲の兄夫婦の間に子ができたとわかった際、集落は一時彼らの話題で持ちきりになった。新たな命に誰もが笑顔を見せた。産まれてくる子も、土地の者なのだ。

 兄嫁が同じ家に住むようになってから咲は家の居心地が悪くなったのか、時を同じくして地元へと帰ってきた充のもとへ、暇を見つけては遊びにくるようになった。子供の頃にも増して母は咲を歓迎するようになり、今夜のように食事まで共にする機会が多くなった。暇な時間をつぶすための娯楽もない場所では、逃げ場所も少ない。

「お義姉さん、とてもいい人なの。でもなんだか、あの家にもう私はいるべきじゃないような気がして」

 言葉を変え調子を変え、咲は頻繁にそう漏らした。長男一家の住まう家で、咲には咲の心労があるのだろう。

「なんだかごめんね」

 充にむけての言葉なのか独り言なのか判断のつかないまま、声が地面に落ちた。

「別にいつものことだろう。こんな田舎でも、夜道は危ないし」

「そうじゃなくて」

 ゆっくり自転車を押しながら歩く咲の歩幅に合わせて、充は次の言葉を待った。

「おばさんに、私と充のこと期待させちゃってるような気がして申し訳ないの」

「考えすぎだろう」

「私は引き取り手のない厄介娘。充は女気のない地味男。てっとり早くくっついてくれたらいいのにって、きっとうちの親もおばさんも思ってる」

「地味男って、お前なあ」

「こうして軽口を叩いてくれる女、周りに私しかいないでしょう。幼馴染に感謝してほしいくらい」

 ――私たち、いつの間に親のことなんて考える歳になっちゃったんだろう。

 自転車をはさんだ向こう側で咲がつぶやいた。答えを求めない完結した言葉だった。今と過去、変わったのは二人の歩幅と背丈だけだ。

 夜風が二人の背後から吹いて、追い越すたびに少しずつ季節を進めていく。次の季節には集落が紅葉に燃えるだろう。

「東京に戻りたいって思う?」

「思うよ。でも、想いと現実はちがう。俺にもお前にも、ここでの生活がある」

「どうして〝お前も〟って言葉がつくの。そうやって、自分を少し遠ざけて諦めようとする癖あるよね」

 どういう意味だよ、と返しながら咲の視線をたどった。空に星がはりついたまま動かなかった。

「その半端な諦めがちゃんとどっしり地に着けばいいんだけどね」

 あとは一人で帰るから大丈夫と言い残して、咲が自転車を漕いでいった。揺れる黒髪がすっと暗闇に溶けてゆく。

 充はその日の夕方、山本に言われた言葉を思い出した。

――おふくろさんを安心させてやれ。

 母を安心させることを、これまでに一度も考えなかったと言えば嘘になる。ぐるぐる回りながら落ち着く場所を求める言葉に、何度も蓋をしてきた。

 

 

 滅多に鳴らないスマートフォンの通知音で充は眠りから覚めた。実家で再び暮らすようになってから極端に交友関係は減った。地元に残っている同級生達と会おうと思わないのは、彼らが家庭を持ったことや充の内向的な性格が理由のすべてではなかった。一度故郷を捨て、何も手に持たずに戻ってきた自分自身に後ろめたさがないとは言いきれない。

 画面には翔平の名が表示されていた。

「元気にしてるかな?」

 画面のロックを解除しようとする指が、つと止まる。もう一度翔平の名を確認し、スマートフォンを置いて遮光カーテンを開けた。庭の木々に降りる陽の強さが今日の暑さを思わせた。

「来週、出張でそっちに行くことになった。よかったら久しぶりに会えないかな。返事待ってます」

 続けて送られてきた翔平からのメッセージに気持ちが波を立てた。二度と帰らないだろうと諦めを背に東京を去ったとき、かつていた場所に置いてきた男が翔平だった。

 壁に掛けた時計を見た。七時二十五分。工場まで車で山道を十五分。仕事のある日は八時には家を出ることに決めている。

 階下に降りると母が朝食を用意していた。

「あんた、いい歳なんだから食事中に携帯電話いじるのやめなさいよ」

 食事をしながら母が言った。自分こそテレビを眺めながら食事して、と心のなかで言い返す。思うことすべてを言語化していては、暮らしは滑らかには進んでくれない。

 あら、怖いわねえ。日本のどこかで起きた殺人事件を伝えるニュース番組に向かって母が独り言を繰り返す。母がテレビに釘付けになっているのを確認しながら、手元のスマートフォンに文字を打ち込んだ。

「元気にしてます。俺も久しぶりに会いたい」

 翔平への返信は、言葉が素っ気なく、文字通りの意味にだけ響くよう努めた。名の付けられぬ感情を少しでも相手に読み取られたくない。わざわざ食事中に返信を打ち込んだのも、翔平からの連絡一つで生活の歯車が乱れるはずなどないと、自分自身に言い訳をするようだった。

 かたかたとだらしない音を立てながらまわる扇風機が朝の熱しきらない空気を運んだ。一定のリズムで往復を繰り返す毎日は、ほんの些細な変化でずれる。一度ずれたリズムは本人の気付かぬうちに遅れを積み重ね、遅れに気付いた頃にはもう取り返しがつかない。

「世の中、変わった人たちもいるのねえ」

 母の視線の先ではニュース番組が同性婚の話題を伝えていた。

 手元のスマートフォンからテレビへと意識を移した。先日、東京のどこかの地域で同性婚を認める条例が可決されたという。それに合わせて行われたものなのか、男性同士のカップルが結婚式を挙げている映像がうつしだされた。

「まさかあんたもこの人達みたいなのだったりしないでしょうね」

 箸を動かす手を止めて母が充の眼を覗きこんだ。

「みたいなの、ってなに」

「ああいう、男を好きな男の人のこと。咲ちゃんの他に女っ気ないし、いまだに独身だしさ」

「朝から馬鹿なこと言うなよ」

「あんたの場合はただモテないだけか」

 妙な抑揚をつけて母が言う。卵焼きに箸を伸ばしながら、そっと問うた。

「俺がこの人達みたいなのだったらどうするんだよ」

「きっと許さないだろうね」

「誰を」

「そんな風に生んで育てた私自身を、かな」

 醤油で濃く味付けをした卵焼きが喉奥にひっかかる。お茶で流し込もうと湯呑に手を伸ばした。

 ニュース番組のカメラは色とりどりの風船が空にのぼっていく姿をうつした。純白の衣装に身を包んだ男二人と結婚式に参列した人々が青空をじっと見つめる。充の見たことのない高く澄んだ空が次々に風船を飲み込んでいった。

 

 

「お前、今日ずっとぼーっとしてたぞ。大丈夫か」

 仕事後、「煙草吸おうぜ」と外へ連れ出された先で山本に言われた。

 その日充は仕事で初めてミスをした。単純な作業を間違えたことはこれまでになかった。コンベアを流れてくる部品を、二度も見送ってしまったのだ。

「高梨らしくないぞ」

「すみません」

 いくら山本が充のことを元同級生だと言っても、やはり上司であることに変わりはない。仕事でミスをしたのであればなおさら関係の線引きは必要だった。

 自動車産業のピラミッドは過酷だ。下請けやそのさらに下請けの者達は、必死に働けば働くほど労働力を吸い取られていく。海外工場の低単価に合わせて無理強いをさせられるのは、国内の自動車工場ではどこも同じだろう。ピラミッドの上からおりてくる値下げの要求を、みな赤字覚悟で泣く泣く受け入れているのが現実だ。

「なにか悩み事でもあるのかよ」

 山本が充の煙草を吸いながら問うた。煙草を、と誘ったのは彼なりの気遣いなのだろう。昔から、クラスメイト達の前に立ってみなをまとめながらも、小さな変化によく気付く男だった。

「いや、なんでもない。少し考え事をしすぎた」

「気負うなよ。話を聞くくらいならいつでもしてやるからよ」

 屈託なく笑う山本の声が風のように胸を過ぎ、たまっていた感情の靄を連れ去っていくような気がした。

 この男は一体、自分の何を理解しようとするつもりなのか。すべてを吐露したらどうなるだろうという想像は、中学高校の間に数えきれないほど繰り返した。そのたびに、理解など望んでいないのだと充は結論した。だからこの清々しさは、恨めしさや苛立ちではなく、むしろくっきり縁取られた諦念だった。

 風が作業着の隙間から入り込んで、汗でじっとり濡れた背中を乾かしていった。

 ああ、また吸っちまったよ。ぶつぶつとつぶやきながら山本が空き缶に灰を落とす。ところどころ煤で汚れた大きな手が口元と空き缶を往復していた。

 仕事中、何度も翔平のことを思い出した。

 五歳上の翔平とは、学生の頃から東京を離れるまで付き合い続けた。だから充にとって、東京での生活はそのまま翔平との思い出と言ってもよかった。

 別れの日、翔平は充を止めなかった。 

――地元へ帰ることになった。

――そうか。

 たった一言で別れを受け入れた男が、再び会いたいと言っている。翔平に会うことで再び東京へ戻りたいと思ってしまう可能性よりも、田舎で息を殺しながら惨めに生きている自分を彼に見られたくなかった。そんな自己完結した駆け引きは、しかし「ただ会いたい」と思う心根に対する後出しの理由だった。

「ま、気楽にな。お互いこの歳になったら、人に言えないことの一つや二つあるだろう。俺だって嫁に言えない隠し事があるわけだし」

 どうせ風俗か何かのことだろう、と充が返すと、煙草を持っていない方の手で山本が充の背中を豪快に叩いた。その反動で煙が妙な個所に入り込んでむせた。

 ごほごほむせる充を見て笑いながら、「そういえば」と山本が思い出したように切り出した。

「来週末の盆祭り、暇なら高梨も手伝ってくれ。今年も俺たち青年消防隊が現場仕切ることになってるんだよ。警備の人手が足りねえんだ」

「団長さんは大変だな。頑張ってくれ」

 充が山本の誘いをやんわり避ける。やれやれ、と言いたそうな顔の山本に二本目の煙草を差し出した。

 

 

 次の週の土曜日。休日は夕方まで寝ていることも少なくないが、部屋にこもった熱気に早く目を覚ました。改修などしたことのない家は、夏は暑く冬は寒い。一階の台所からは匂いも音もしない。母が毎週土曜日の昼から夜にかけて書道教室へ行っていて留守なのだと思い出した。

 夜、翔平と会う約束を交わしていた。短文のやり取りは、「では土曜の夜に翔平の泊まるホテルで」、という着地点におさまっていた。ホテルで落ち合うという単純さがかえって充に安心感をもたらしてもいた。今更ゆっくり食事をしながら言葉を交わす間柄ではないだろう。翔平にそう告げられている気がした。そこから先の邪推は平日の間にすっきりと捨てきったつもりだ。

 翔平が宿泊しているというホテルは県庁所在地にある。充の住む場所から車で一時間弱。地元で職を得てからは、車で遠出することも少なくなった。同じ県内なのに車を使っても一時間近くかかる距離に、改めて自分の生きる場所が僻地なのだと思い知らされる。

 扇風機の風を調節しようと寝床から立ち上がると、疲れた体のあちこちが軋んだ。いつまでこの仕事を続けるのだろう、続けられるのだろう。体を壊して退職していく男を、この二年間で何人か見送ってきた。

 再び床に入り二度寝の時間を逆算しているとインターフォンが鳴り響いた。どうせ母の知り合いにちがいない。居留守を決め込もうとするとすぐ、開け放した窓から充を呼ぶ咲の声が飛んできた。

「あら、まだ寝てたの」

 急いで寝巻きを着替えて玄関を開けると咲があっけらかんと言った。

「なんだよその格好」

 普段ジーンズにTシャツしか身にまとわない咲が、アイボリーのワンピースを着ていた。さすがに膝はすっぽり隠れる丈の、落ち着いたデザインのものだった。頭にはつばの広い帽子を乗せている。

「今日、盆祭りだからおしゃれしてみたの。どうせ暇でしょう」

 今年は一緒に花火を観に行こう、と咲が歌うように誘った。毎年八月、暑さの盛りに開かれる盆祭りはかつてそこが「村」だった頃から続いている風習の一つだ。充と咲が幼かった頃、いまよりは多くいた子供たちがこぞってフィナーレの花火を観ようと集まった。充が東京で過ごした数年の間に、子供よりも老人の数の方が多くなったと聞く。

「いや、俺はいいよ」

 冷蔵庫から麦茶を取り出してグラスに注いでいる咲の背中に言った。勝手知ったる人の家とまではいかないが、頻繁に母と並んで料理をしているだけあって手際よく高梨家の台所を使っている。卓にグラスを運んできた咲の髪から、ふわり桃の香りがした。

「人混み苦手だし」

 麦茶をすする咲に、求められてもいないと分かっていても言い訳を重ねた。盆でやってきた親類縁者も含まれるからなのか、祭りの会場は実際の人口以上にずっと人の群れができあがる。

 あ、と咲が声をあげた。

「もしかして誰かと行く予定があった?」

「別にそういうわけではないけど。夜、ちょっと野暮用があって出かけるから」

 がっかりした様子の咲を前に、次に繋ぐ言葉が出てこない。

 沈黙の幕を咲が破った。

「充はこれからどうするの?」

 咲の言う「これから」は、「将来」を指していた。充一人の、ではない。母や充、すべてを含めた「将来」だった。

 咲がグラスを置き、充の隣へ移動した。強いまなざしを覗きこむと、咲が唇を合わせてきた。

「私たち、ずっと一緒に育ってきた。充が東京に行っちゃうまでの間、ずっと。だから私、充のことは誰よりも知ってると思う。充が望むものと望まないものが何かってことも、知ってる」

 やめろよ、という抵抗の声も咲の唇にかき消された。

「私たちが一緒になることで落ち着くものがあるのなら、それでいいんじゃないのかな」

 お願いだから、と漏らす咲の声に充は突き動かされた。

 ワンピースの隙間から咲に触れる。初めて感じる女の体に何度も戸惑い、迷いながらも進んでゆく。

 この時間に母が外出していると知っての行動ならば。静かに浮かんだ問いを、力強さに変えて咲に押しつける。咲の唇から漏れる声が答えだった。

 足を持ち上げて、充はゆっくりと咲の芯に向かって動いた。

 充はつと、記憶の海に沈んだ翔平を思い出そうとした。長く逞しい手足、抱きしめられて包まれると、息苦しくなる胸の厚さ、その温度。

 東京で生きた思い出が翔平の形をしていた。咲の内奥にその輪郭を見つけようともがいてみる。萎んでいく熱を何度も奮い立たせた。ぐっと瞼に力を入れて目に蓋をする。過去が溶けて、流れ出してしまわないよう祈った。

 小さく軋む畳の音に紛れて声が聞こえた気がした。充は組み敷いた咲の瞳を覗き込んだ。

「わかってる」

 不意に満たされた。この数日間、翔平に会う瞬間を想像するとき決まって胸の高鳴りとも違う名付けようのない感情に包まれていた。それが虚しさだとわかった後は、ただ記憶の海に沈みながら手を差し伸ばし、光を仰ぎ見るばかりだった。

 いま自分は、この女に抱かれている。充は確信した。ほとんど泣き出しそうなほどに、女の強さに甘えたくなった。

 

 

 事後の気まずさは幼馴染という関係が消してくれた。壁時計が午後五時を指している。

「おし、祭りいくか」

 ティッシュで下半身を拭いながら充は言った。

「用事あるんじゃなかったの?」

「あったけど、もういいんだ。花火を観たくなった」

「そっか」

 燃えるような感情の熱はなかった。すべてを言葉にしなくとも想いを汲むことのできるのが山中咲という人間だった。ジーンズにベルトを通し終えた頃には、すっきり気持ちが凪いでいた。

 盆祭りは役場下の広場で毎年行われる。なぜか毎年雨に見舞われる祭りも、今年は晴天に恵まれた。まだ太陽の薄明かりが残る空を、屋台の照明と連なる提灯の火が押し上げていた。まだ現在ほど道路も整備されておらず、冷暖房具さえもなく農業だけで村がまわっていた頃、夏には熱中症、冬には高地の寒さで老人が死ぬことが多々あったという。彼らの魂が帰ってきているとしたら、会場の明るさに反したどこか静謐な空気も納得できた。

「高梨」

 名を呼ぶ大声に振り返ると、消防団の団服に身を包んだ山本がいた。警備の見回りをしているのであろう彼の手にはビールの缶が握られている。誰も彼も浮かれていた。

「結局、祭りに来てるじゃないか」

 まあな、と充が濁す後ろから、咲が山本に声をかけた。

「山本くん久しぶり。消防団の人たち大変そうね」

 咲と談笑しはじめた山本が、「ちゃっかり者」と言って充の小脇を突いた。そんな面倒な山本の態度も、ひとつの「諦め」と思うとまっすぐに腹の底へと落ちていく。

 屋台を冷やかした後、時間を見計らって二人で祭りの会場を離れ、充の運転する車で山道を進んだ。

 街灯のない、アスファルトだけがけもの道と人の道を区別するだけの山をのぼっていく。車で五分ほど進むと山頂にたどり着いた。そこにはかつて充と咲が通った小さな小学校がある。幼い頃は遠い道のりに思えた通学路も、大人になったいまではすぐ近くに感じる。

「さすがに門は開いてないね」

「俺らが小学生の頃とは違うだろう」

 車を降り、小学校の敷地まわりを並んで歩いて花火の見える場所を探した。車内に置いてきたスマートフォンの存在を充は意識的に頭から追い払った。

 充は道端に落ちていた石を蹴りながら、幼少期を思い出した。

 昔は高梨家と山中家の全員で、毎年ここへ花火を観にきていた。季節のものが好きな父が用意するブルーシートにみんなで座り、まだか、まだかと花火を待った。クーラーボックスから大人たちはビールを、子どもたちはジュースを取り出して熱い喉を冷やした。ほら、おうちが見えるよ、と咲が指をさす先に目を凝らすと、暗がりのなかに集落が見えた。山々が囲む空に、夏の夜の熱気がとじこめられていた。ずっと遠くにある星が一瞬光を失い、そのすぐあとに花火が輝いた。あの頃掌よりも大きかった夏の花は、充と咲にそれぞれの役割を少しも教えてくれなかった。

「懐かしいね」

 咲の声が夜気を震わせる。充の蹴った石が咲の前へ転がると、今度は咲が石を蹴った。翔平は今頃待っているのだろうか。ひとつところに落ちていこうとする不安定な想いを、石と共に小さく蹴った。

「ここなら見えるかも」

 小学校の裏手にある崖に二人は立ち止まった。粗末な木製フェンスがいまにも朽ちそうな気配で佇んでいる。

 破裂音に少し遅れて、山間の夜空に花火が咲いた。ひとつ花火が消えると、追ってまたひとつ、ふたつ、花火が打ち上がる。

「あの光が届く場所だけが、私たちの世界なのかもしれないね」

 咲もまた、この土地で生きて死ぬ者だった。

 充は足元の石を大きく蹴った。石が木製フェンスの隙間から崖下へ転がり落ちていく。

 嘘で身を包む生活が嫌で生まれた場所を飛び出した。思えば、東京で暮らした日々もいまの暮らしも、何一つ変わるところがない。ずっと嘘を生きている。騙しているのも騙されているのも、どちらも充自身だった。

 思い出に名を付けたくはなかった。過去も現在も、剝き出しのまま尖っているただの石だ。転がって、転がって、それでもまた生きていく。

 花火が二人を見下ろしていた。光が消える頃には、ひとつ季節が終わるのだろう。

 

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「小説は、書けても恥だが書けなくても恥にちがいない。」

 

 私の大好きな作家の、大好きな言葉です。

 曲がりなりにも何かを形にしようと思い、でも思うだけで言葉を書けない、言葉が出てこない。そんな毎日を繰り返しています。私はまだ、書くことも、「書けない」ということもできていない。その焦りが、気持ちを浮かせたり沈ませたりします。

 

 これまでのたいしたことのない人生を振り返ると、自分は根のない人間だと思うようになりました。ひとつところに留まれない、こだわりがない。どこへ行っても同じ。目の前の物事を、すぐに諦めて見送ってしまう。

 根のない生き物は腐ります。でも、腐るのもまたいいかな、とも思います。どうでもいい、どうでもいい。何もかもがどうなろうと構わない。そうして腐りゆく人間だからこそ書ける言葉が、もしかしたらあるかもしれない。

「小説は、書けても恥だが書けなくても恥にちがいない。」

 この言葉が真に指すものを、私は早く腹に落としたい。

歯茎が痛い

 尻穴の次は歯茎が壊れました。

 昨日の夕方ごろから右奥の歯茎に違和感があり、不摂生のせいだろうと、寝たら治るだろうと思っていました。が、夜になるにつれて痛みがひどくなり、終いには口を開くのも痛いレベルに。

 なんとか眠りにつき、今朝起きると、これはアカンですわ・・・というレベルの痛みが歯茎を襲っていました。口を開くのも痛い、煙草をくわえるだけで痛い、ご飯を食べようにも、咀嚼するたびに激痛。

 痛みの症状をネット検索するとどう考えても親不知。まさか自分が・・・と思いつつも、我慢できない程度にまで痛んできたのではいつくばって歯医者へ駆けつけました。

  

 

 実に4年ぶりくらいに歯医者へ。初めて訪れた病院で必死に症状と痛みを訴えるも、医者がヘラヘラ笑いながら「親知らずですね~」しか答えないため絶望。アイアンメイデンみたいな恰好でレントゲンを撮影。レントゲン写真を見ると、親知らず的サムシングが真横に生えていました。

 どうやら次回の次回あたりに抜歯するそうです。怖い。とりあえず今日は致死量の抗生物質と痛み止めだけをもらって帰路につき、一日中寝込んでました。

 尻穴も壊れ、親知らずが訳わからん生え方をし、本当につらい。口がまともに開かないためちんぽもしゃぶれない。酒を禁止されたらパートタイムジョブもできませんし困ります。

 早く健康になりたい。ほな…

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開いた尻がふさがらない

 題名の通りです。先日の脱糞騒動以後、尻穴が開いた状態のまま閉じず、ここ数日の間は常に脱糞の恐怖に悩まされていました。しゃがんだ瞬間に出ないか、寝ている間に漏れないか、何をしていても心が落ち着かない。そんな尻穴もやっとふさがってきたので、どのようにして尻穴をふさいだか報告しようと思います。

 

 前提として、みなさんに私の尻穴事情について知ってもらいたい。私は17のときに痔瘻を患い手術で治療した経験があります。なのでそもそも常人よりも尻穴が緩いのです。肛門周辺の肉をメスで切って治療したわけですから、こればかりは仕方のないことです。いまでもうっすらと手術痕があり、治した箇所は肉が少し硬い。そんな経験があるのでとにかく尻穴がデリケートで、通常の排便でも気を使わないと肛門が切れます。そんな尻穴に男性器を突っ込んだりしているわけですから、いつか壊れる覚悟はしていました。号泣する準備はできていたんです。

 

 まず、肛門外側の治療。どのように表現したらよいのか分からないので、とりあえず「肛門の外側」とします。入口であり出口でもある部分のことです。

 先日の脱糞以降、肛門の外側がズタズタな状態のまま治りませんでした。そこでプリザSを異常なくらい塗りたくることで乗り越えました。一日四回ほど、尻を突き出し、指に致死量のプリザSを乗せ、セルフ手マンするわけです。サッと塗っただけでは尻の内奥まで届かないので、指を突っ込みます。軟膏は尻穴の化粧水であり乳液です。重ね塗りもします。そして致死量のプリザSをねじ込んだあと、意図的に直腸を締めます。この動作に意味があるかはわかりませんが、顔に化粧水を塗ったあとにハンドプレスするのと同じ感覚です。これを数日間繰り返すことで、肛門の外側の痛みが改善されました。大正製薬さんには頭が上がりません。

 

 そしてもう一つが、括約筋のトレーニングです。いくら肛門の外側を治したところで開いたものをそのままにしていては漏れる一方です。みなさんは玄関の扉を開いたまま生活しますか?しませんね?私の場合はこの扉がぶっ壊れてしまったわけですから、無理矢理閉める作業が必要になったんです。

 簡単なことです。毎日、ふとしたときに肛門を締め続けるだけ。スマホを見ているとき、電車に乗っているとき、食事をしているときに、ギュウギュウと肛門を締めます。本当にたったこれだけで肛門の締まりが改善され、扉が閉ざされたのです。ガッバガバなケツマンコをお持ちのみなさんですから、ぜひこの括約筋トレーニングを実践してみてください。

 

 以上です。終わり

脱糞について考える

 結論から申し上げますと、本日脱糞しました。性行為中の出来事ならまだしも、普通に外を歩いているときにしました。なので私自身いまだに気持ちの整理がついていませんし、アレは本当に現実の出来事だったのだろうかと疑っている状況です。ですので状況確認と原因分析、今後の脱糞対策をするために本日の出来事を時系列順に確認しようと思います。「もし自分が脱糞したら…」という視点で読んで頂けたらと思います。よろしくお願いします。

 

14:00

起床。前日の酒が残っており腹の調子が思わしくない。ベッドから起き上がりトイレへ行く。宿便を無理やり出産。産婆と妊婦を兼任。産声を聞き母性に目覚める。

 

14:30

性欲の高まりとともに出会い系アプリでハウリングをする。1人男性を確保するも、直腸洗浄中にドタキャンされる。「無駄な浣腸をさせるな」と腹を立て、急遽別の男性とアポイントメントを取る。先方の都合により17:00に約束をする。2時間ほど暇になる。

 

15:00

前日のパートタイムジョブによる二日酔いと疲労がひどいためベッドに死んだように横になる。眠気がこないためMINMIのシャナナ☆を聴き、ありえんくらいの躁状態になる。

 

16:00

男性と会う用意を開始。もう一度浣腸をする。シャワ浣ができないくせになぜか今日はイケる気がして挑戦。シャワ浣に成功するも、直腸に水がドバドバ入り込み混乱する。加減がわからないため、排出される水の色を見ながら調整。おそらく飲める水と同じくらいの衛生状態となる。

 

17:00

デリバリー娼婦のごとく男性の家に上がりこむ。会って3分で「セフレになろう」と言われる。某氏の「性に明け透けすぎて恋愛対象に見られない」という他己分析を思い出すも、性に抗えない。

 

18:00

好きな人の顔を思い浮かべながら射精に至り、性行為を終える。途中、肛門から漏れているような気がするも、錯覚だと信じる。デリバリー娼婦は長居をしない。シャワーを浴びて颯爽と男性の家を出る。

 

18:10

男性の家から駅までの道中にブックオフを発見し入店。最寄りのブックオフに置いていない本を見つけ、小説を2冊購入。

 

18:40

最寄駅に帰還。起きてから何も食べていなかったため猛烈な空腹を感じ、大戸屋に入店。糞煮込みみたいな味噌料理を食べる。隣の彼女連れ男性がかわいすぎたため、視姦しながら糞煮込みを口に運ぶ。

 

19:00

喫煙するためにパチ屋に入店。一通り海物語の島を徘徊するも調子が良さそうな台がなく、煙草を一本吸っただけで打たずに退店。

 

19:10

自転車をとめている場所まで歩く。歩きながら、ふと屁がこみ上げる。放屁寸前にいやな予感がする。いままさに出でんとするモノが、屁か、残留ローションか、あるいは宿便か、判断がつかない。歩きながら3秒ほど思考。屁に賭けた。宿便だった。

 

19:11

脱糞するも、なぜかあまり驚かない。気持ちが不思議と凪いでいる。立ち止まったまま、ふと「夏草や 兵どもが 夢のあと」という句が頭に浮かぶ。頭の中の芭蕉が詠んだのかもしれない。脱糞云々よりも、流れ出たモノがズボンを汚していないかと焦る。華麗に上半身をまわして下半身を目視。無事だった。

 

19:12

このままでは自転車に乗れないと思い、すぐ近くのコンビニに駆け込む。トイレを拝借し、ゆっくりズボンと下着を脱ぐ。お気に入りの白と水色のボーダー柄下着が死亡。白と水色と茶色がコントラストを描き、どこかの国の国旗みたくなる。ブックオフで買い物をしたことを思い出し、ブックオフのビニール袋に汚れた下着を突っ込む。袋を二重にしばる。うまいこと臀部をきれいにする。ノーパン状態でコンビニを後にし、店先のごみ箱に国旗入りの袋を捨てる。

 

 以上が、本日の流れです。

 脱糞の原因としては

(1)二日酔いで腹の調子が悪いにも関わらず性行為をした

(2)本日の相手が激しかった 

(3)慣れないシャワ浣によりオンナの奥深くから溢れ出た 

(4)括約筋が死亡した

この4つが考えられます。私としては特に、(4)の可能性が高いのではないかと考えています。なぜなら本日お会いした男性に「ガバマン」と言われたからです。

 

 今後の脱糞対策としてはそれぞれ、

(1)二日酔いの日は性行為をしない

(2)性行為をする相手としっかり会話をし、程よい性行為を心がける

(3)シャワ浣に慣れる。直腸の気持ちを考える

(4)人工肛門にする

を検討しています。

 

 私の経験がみなさんの脱糞未然防止に繋がれば幸いです。終わり

遅漏について考える

 みなさんのおちんちんの具合はどうでしょうか。

 元気なおちんちん、風邪気味のおちんちん、反抗期のおちんちん。いろんなおちんちんがあると思います。一人一本与えられたモノですから、ぜひ大切にしてあげてください。今日はおちんちんについて思うところがあるので、書きます。

 

 男性同性愛者として生を受け、16でおちんちんの味を知り、私はこれまで生きてきました。おそらくそこらの風俗嬢と同じか、あるいはそれ以上におちんちんを目にし、そして実際に触れてきました。時には口で味わい、時には手で温もりを感じ、そしてある時には自らの直腸にブチ込んできました。そして一つのことに気が付きました。人の性格が千差万別であるのと同様に、おちんちんにも個性があるということ。考えてみれば当たり前の事実なのに、私たちはいつもこの事実を忘れてしまう。

 おちんちんをカテゴライズするのは難しい。なぜなら先述の通り、おちんちんには「個性」があるからです。「うちにはうちのおちんちん、よそにはよそのおちんちん」とはよく言ったもので、そもそも比較するものではない。繰り返しになりますが、一人一本与えられたモノですから、大切にしてあげてください。そして時には愛情をもって叱ってあげてほしい。

 

 とは言っても、おちんちん同士の相性はあります。育ってきた環境が違うから好き嫌いはイナメナイし、夏が好きだったりセロリが好きだったりするのと同じです。相性の良いおちんちん、悪いおちんちん。これはもう仕方のないことです。ですから、私はできるかぎり目の前のおちんちんの性格を知り、彼の良いところを見つけようと努めます。そして自らのおちんちんを彼に合わせます。たとえばDV癖のあるおちんちんには依存女みたいなおちんちんにするし、自信過剰なおちんちんは適度におだてて彼の自尊心を満たします。でもどうしても合わせられないおちんちんがあります。遅漏です。

 

 ここから先は、私が生粋のウケなのでウケの視点でしか語れないということを頭に入れて読んでください。

 

 早漏は射精を我慢すれば良いだけの話なので、おそらくなんとでもなります。しかし遅漏となると話が変わってくる。シコれどもシコれども射精せず、「もうイク」と言って早幾年。一体どのような時間の感覚でイク宣言をしているのでしょうか。私のようなウケからしたら、自分が射精した後に挿入され続けるのは肉体的に苦しいです。

 そもそも思い出してほしい。あなたたちが挿入している箇所は、排泄器官であるということを。この指摘はTwitterでも何度もしています。うんちの出る穴におちんちんを入れるなんて、おかしいのです。あなたたちが挿入している穴の奥深くには、うんちが詰まっています。うんち工場は365日24時間稼働し続けています。そのうんち工場の従業員出口を異物で攻撃しているわけですから、いつ暴動が勃発するかわからないのです。だからこそ、遅漏のおちんちんは困ります。工場長はカンカンに怒っています。

 

 というわけで、遅漏の対策について考えました。

 私には医学的な知識がありませんから、あくまで個人の見解です。

 

【遅漏対策法】

①日常生活の改善

②自慰方法の改善

③性行為中の意識改革

 

 まず①の「日常生活の改善」。男性はえっちな気持ちや刺激が高まると射精に至るものだと私は思います。なので、常にえっちなことを考えてください。何気ない日常の中に、えっちな物事を見出してください。たとえば空に浮かぶ雲の形を性器に見立てたり、道端に止まっている車がマジックミラー号だったらどうしよう!!と考えてみたり。方法はいくらでもあります。

 次に②の「自慰方法の改善」。自慰は別名「ひとりエッチ」とも言います。そしておそらく多くの人にとってはえっちをするよりも自慰をする回数のほうが多いと思います。ですから、日々の自慰を変えていきましょう。それが結果として遅漏を改善することにつながると思います。とはいっても、遅漏なわけですから、極力自慰はしないほうがいいでしょう。本番に向けて、ひとりエッチを控える。どれだけアカンくらいちんちんがムクムクしてしまっても、触らない。それでもどうしようもないときにだけ自慰をしましょう。そして自慰をする際に寸止めをしない。一人で「イクイクイクー!!!」とかなんとか言いながらさっさと射精しましょう。

 最後に③の「性行為中の意識改革」です。とにかく射精に向かって全神経を尖らせてください。全身がおちんちんになったつもりでパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン腰を振りましょう。全身がおちんぽになっていると思い込むことが大切ではないでしょうか。あなたがおちんちんになるということ。おちんちんそのものになるということ。

 

 以上が私なりの考えです。終わり

ひらいて

 本や映画やなにやらについての感想を書くのがとても苦手です。というのは、自分の感想が人にどう思われるのか気にしてしまうからです。本当に生きづらいですね。死にます。

 でも本当に好きなものについて書きたくなったので、書きます。

 

 

ひらいて (新潮文庫)

ひらいて (新潮文庫)

 

 『ひらいて』綿矢りさ

 

 女子高生がクラスメイトに恋をして暴走していくお話です。暴走、というのは正しくないかもしれない。でもほかに説明のしようがないのでとりあえず。

 人を好きになって、どうしようもないほどの熱が内側にこもる。自分でももう抑えられない。そんな時の力強さと無気力さが「私」によって語られる小説です。

 

「正しい道を選ぶのが、正しい。でも正しい道しか選べなければ、なぜ生きているのか分からない。」

 

 この小説で一番好きな言葉です。この言葉がどんな意味を持っているのか、暇があればぜひみなさんの目で確かめてみてください。

 それと余談ですが、昨年綿矢りささんの講演会に参加した際に『ひらいて』について少しお話をされていました。『ひらいて』にはほんの少しだけ『春琴抄』のネタ(?)が出てくるのですが、そのことに触れていました。綿矢さんは大学生時代、谷崎潤一郎を研究するゼミに所属していたらしいです。『春琴抄』も大好きな私としては最高&最高&最高でした。『ひらいて』の中で『春琴抄』がどのように取り込まれているかも、ぜひ注目してみてください。 終わり

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