ドブの底

汚い

イチジク浣腸

 みなさんはイチジク浣腸を使用したことがあるでしょうか。ウケの方ならあるかもしれません。私は性行為をする際必ず使用します。イチジク浣腸について思うところがあるので、書きます。

 

 イチジク浣腸歴、かれこれ四年ほどでしょうか。最近思ったのですが、容器の形状が内容量によって違うんです。当たり前かもしれませんが。以前は30g入り×2個のものばかり購入していたのが、ちまちま買うのが面倒になり箱買いするようになりました。箱のものは40gなんです。「イチジク浣腸」の名がそのイチジクのごときフォルムに由来していることは言うまでもないと思いますが、イチジクにもいろんな形状があるということです。端的に言うと、30g入りの形状が若々しく固い実のイチジク、40g入りが熟して旨味の詰まったはじけそうなイチジクです。

 直腸に注入する際、30g入りのモノよりも、40g入りのモノの方が圧倒的にブチ込みやすいです。言葉で表現しきれないので、こればかりはみなさんの直腸で体感してください。強いて言うなら、注入する際の力の伝わり方が違います。30g入りのモノが小指で手マンされる程度の注入力とすると、40g入りのモノは前戯なし即膣内射精といった圧倒的注入力があります。ぜひ試してください。終わり

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就活が終わらずストレスが溜まり最近は眠剤をキメないと眠れません。肌荒れも治りません。寿命待ち。終わり

最近買ったものです。

 

 

 薬局で安くなっていたから買いました。たいして効果ないけど量が多いです。ヌルヌルする。

 

ナチュリエ スキンコンデショナー 500ml

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 気持ち良い

 

ラブレス (新潮文庫)

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 名作だと思います。主人公が「ユッコちゃん」です。

 

 全然虫が侵入してきます。

 

【第2類医薬品】イチジク浣腸40 40g×10

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 イチジク浣腸をブチ込んで二分くらい経つと全身に鳥肌立ってくる。私だけでしょうか。宿便。

 

 臭い、ダサいの二重苦。

 

DHC 亜鉛 60日分 60粒

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 めっちゃドピュドピュドピュドピュ

 

 

終わり

 

 

残映(2)

 家へ帰ると台所から賑やかな声が聞こえた。築三十年は経つ家に、魚を煮詰める甘い匂いが漂っている。

「帰ってたの。ただいまくらい、大きな声で言いなさいよ」

 台所から顔だけ出して母が言った。その向こうに、咲がいた。

「おじゃましてまーす」

 母親と共に料理をしている咲は、自分の家ではないにもかかわらずエプロンをつけている。まったくうちの子はねえ、と話す母親の声に合わせて、後ろで一まとめにした咲の黒髪が揺れる。化粧気はなくとも、十分美人に分類される顔だ。

「もう少しでごはんできるから、お父さんたちに手合わせて待ってて」

 それだけ言うと、女たちはまた料理に取り掛かった。もう少しとは言っても、この様子ではあと三十分はかかりそうだ。洗面所で作業着から着替えて、居間にある祖父母と父の仏壇前へと足を運ぶ。

 モノクロになった父の表情は、あまりに穏やかすぎる。気性が荒く、言葉よりも先に手が出た男の面影は少しもない。小さな町に生まれ、外へ出ることなくここで死んでいった父が、いまの充を見たら何を思うのか。この表情が父の本当の姿だとしたら、腹の中を一度も見せ合わなかった、つまらない親子関係になる。お互いに何を思い何を求めていたのか、仏壇に手を合わせるたびに、線香の煙につられて思考が揺らめく。

 食卓に和食が次々に並べられ、三人の食事が始まった。魚の煮付け、おひたし、味噌汁。還暦の近い母の好みに合わせて、どれも味が薄く作られている。母の髪には白いものが増えてきたようだ。黙々と箸を動かす充の前で、二人の女は話題を尽かさない。

 山本浩介と同じように、畑中咲も小学校からずっと共に育った同級生だ。家同士が近く、昔から高梨家と畑中家は家族ぐるみで付き合いを重ねてきた。幼馴染ということになるのだろう。充と咲は、だから高校卒業までの記憶をほとんど共有していると言ってもいい。一人っ子の充と、兄が一人いる咲。二人が共に育つ姿を眺めていた双方の両親が、その将来に何かしらの期待をしていたであろうことは、いつからか肌で感じていた。

 一年前に父が心臓発作であっけなく死に、東京の大学を卒業してから定職に就かずアルバイト生活をしていた充に、「もういいでしょう、帰ってきなさい」と母から電話越しに言われたのが半年前。地元に戻り、とりあえず就職した小さな自動車工場の仕事にもやっと慣れてきた頃だ。

 二十代も半ばに差し掛かったいま、こうして母に毎日料理を作らせている生活は、はたして正解なのだろうか。できれば所帯を持ち、母に孫の顔を見せてやることができるのなら、それはそれでいいのかもしれない。今日、退勤後に山本に言われた言葉がすっと耳の奥に蘇る。

『お前も早く嫁をもらえ。家族はいいぞ』

 黙って箸を動かしながら、充は家族について考えてみる。赤の他人同士が寄り添い合い、血を繋げていく。この場にいる者の誰もがそうして生まれてきた。そしてきっと、自分たちも等しくそうするためにいる。例えば目の前にいる咲と自分がつがいになることを、夫を亡くした母は望んでいる。しかし母の想いには応えられない。応えられないという事実を言葉にせずに隠す日々の重さが、食事と共に腹に落ちていく。

 

「咲ちゃん、送ってあげて」

 充が居間でテレビをみていると、食事を終えて洗い物をしている母が頭だけをこちらに向けて言った。

「送るって、すぐそこだろう」

「いいから。あんた男でしょう。女の子一人を暗がりで歩かせるんじゃないよ」

 母の歌うような声色に眉を寄せる。洗い物を手伝っていた咲が、エプロンを外して帰り支度を始めた。漬物を詰めたタッパーを紙袋に入れて、母が咲に手渡した。

 徒歩十五分の道のりを、咲と並んで歩く。田舎の夜は静寂がうるさい。静寂にも音があるのだということを知ったのは、東京から戻ってきてからだ。高梨家から畑中家までは砂利道が一本すっと通っている。街灯などない道に、虫の声と遠くの川を流れる水音が反響し、二人分の足音がリズムをとる。

「なにか話してよ」

 沈黙を、咲の言葉が破った。

「なにかってなに」

「仕事はどうよ」

「どうってほどでもないけど」

 ねえ、と言って咲が暗い山並みを指差した。二人分の足音が止まる。

「流れ星」

 山の端を眺めながら咲が言う。咲の視線の向こうで、紺色の空が山の輪郭を薄く浮き出している。

「見えなかった」

「ぼーっとしてるから」

 立ち止まって夜空を仰いだまま、咲が言った。

「まだ東京に未練があるんでしょ。さっきご飯食べてるときもだんまりで、ここの暮らしに納得がいかないって顔をしてた」

 次の言葉を待った。いま何か口にすれば、答えにも言い訳にもならない。

「ずっと遠くを見てる目をしてる。ここじゃないどこかばかりを見ようとしてるんだよ。東京で充がどんな風に暮らしていたか私は知らないけど、でも私たちはいまここにいる。家族があって、家があって、ここで生きていくしかないんだよ。はやくおばさんを安心させてあげて」

 じゃあね、と咲が充を置いて小走りで駆けていく。充が何か言うのを聞きたくなかったのかもしれない。揺れる黒髪が暗がりに溶けていった。

 その場に立ったまま空を仰いでみる。どの星も、流れることなく空にはりついている。

 ついさっき、咲が言った言葉の意味を考えた。

 東京での暮らしに未練が無い、と言えば嘘になる。東京は人で溢れていた。故郷と違って人が川になり流れる場所で、充も等しく押し流されていく水だった。水として、ただそこにあるのが好きだった。それだけのことだ。

 帰りが早い、ちゃんと送り届けたのか、と母に言われそうで、ゆっくりと来た道を戻った。

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残映

 作業着のまま自販機の前に座り込み、深く煙草の煙を吸い込む。辺り一面は森、煙草の甘苦い後味には、濃い自然の匂いが混じり込んでいる。葉が反射する陽光に目を細める。吐き出した煙は風に揺られて、あっというまに空へ、森へと消えていった。

 缶コーヒーを飲み干して、煙草の吸殻と一緒にゴミ箱へ投げた。勤め始めて数ヶ月、いつの間にか退勤後の一服が習慣になっていた。目を閉じて、聞こえてくる森の音に身を委ねてみる。風に揺られる葉と葉が、掠れあって大きな音を生む。息を吸い込むと、体の中の空洞が森の音で満たされた。何をするでもなく突っ立っていると、道を挟んだ工場の従業員出入り口から男がこちらへ向かって歩いてきた。

「お疲れ。暑いな」

「お疲れ様です」

「敬語、やめろよ。外に出たら上も下もない、ただの同級生だ」

「そうだな」

 笑いながら話す肩幅の広い男は、かつて充が小学校から高校まで共に過ごした山本浩介だ。ずっと野球を続けていた山本は、野球をやめて随分経つ今でも体だけはたくましい。一度地元を離れ、そして再び戻って小さな工場に就職した充にとって、山本は一応とはいえ上司にあたる。ラインの責任者と、ただの作業員。線引きして何になるでもない。分かっていても気持ちは言葉に表れる。

「ここの仕事にはもう慣れたか」

「まあ、ぼちぼちって感じかな」

 そうか、なら良かったと屈託なく言って、山本が自販機で炭酸飲料を買った。缶が自販機から吐き出される瞬間の硬い音も、この自然の中ではひどく小さい。もう飲み物はないが、山本が地面に座り込むのにつられて隣に並んだ。

「高梨はほんと昔から変わらないな。覚えてるか?中学のときの体育祭。暑いのは嫌いだとかなんとか言って、お前だけ練習に参加しなかったんだよ」

「ああ、そんなこともあったな」

「そうそう、それで結局体育祭の本番も、風邪ひいたって言ってずる休みしてたんだよ」

 過ぎた日の出来事を話す山本の目に薄い光が灯る。充の胸に、暗い感情が湧き上がった。

 ――ああ、これが俺は嫌いなんだ。

 電車もない、若者が遊ぶ場所もない。この寂れた陸の孤島で生まれ育った者たちは、口を開けばいつも昔の思い出話ばかりする。何度同じ話を繰り返したら気が済むのか。世界は広く、体一つでどこにでも行かれるのに、皆この町に縛られて生きている。

 感情が顔に滲む前に立ち上がり、喉は乾いていないが再び自販機で飲み物を買った。缶の落ちる音は聞こえなかった。

 小学校から中学校までほとんど同じメンバーで育ち、そのまま町内唯一の小さな公立高校へと進学する。高校を卒業すると誰もが就職する。県内にある大手自動車会社の恩恵で、下請けや、さらにその下請けの工場の働き口はいくらでもある。そして二十代のうちに地元の者同士で結婚して家庭をつくる。そんな未来の分かりきった道から充がはみ出したのは高校生三年生の時だった。

 東京の大学へ行きたいと話したとき、父は怒り狂って反対した。そんな金がどこにある、大学へ行って一体何をするのかと。父の口から出てくる言葉は、そのまますべて充の原動力へ変わっていった。ここじゃないどこかへ。反対を押し切り、逃げるように町を出たのはもう何年前か。いま、こうしてこの町へ戻ってきた理由が父親の死だとは皮肉だ。

「うちの子供がこの前初めて立ったんだ。ほら、これ見て」

 山本がスマートフォンを差し出して動画を再生した。犬や猫みたいな小さい人間が、おぼつかない様子で立ち上がる。

「子供の成長は早いな」

「本当に早いよ。この前生まれたばっかりだってのにさ」

「この前、なんてことはないだろう」

 山本が再び動画を再生し、目を細めて眺めている。変わらず昔話ばかり口にするこの男にも、家へ帰れば妻と子がいる。繰り返される思い出とは無関係に、たしかに時間は流れているのだ。

「お前も早く嫁をもらえ。家族はいいぞ」

 煙草を一本くれと言う山本に、セブンスターの箱を手渡す。山本の言葉に答える代わりに、充も煙草に火をつけた。

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つぼみ

 黒板の隣にかけられた時計を盗み見るのはこれでもう四度目だ。さっき見たときから、まだ五分しか経っていない。時計の下には、「受験はチームプレイ」「塵も積もれば山となる」と毛筆で書かれた張り紙がある。書道部の顧問をしている担任教師の山岡富子が、始業式の日に教壇に立って言った言葉を思い出す。

「みんなのためにこれを書きました。この言葉の通り、受験はチームプレイだと私は思います。目標に向かって頑張る人の背中を見て、同じように自分も頑張ろうと思える。そうして努力が連鎖して、大きな結果を生むと信じています」

 山岡の正確な年齢は知らないが、白いものの混ざった頭髪や、水分の少ない肌から四十歳はとうに過ぎているだろうことは容易に想像できた。いまだに独身だと噂のたつその女教師は仕事が生きがいらしい。毎年三年生の進学クラスを受け持つ山岡は受験のノウハウを知り尽くしており、教員仲間からかなりの信頼を置かれていることが、生徒たちにもよく分かった。実際山岡の古文の授業は面白い。受験用に知識を詰め込むのではなく、生徒たちが古文そのものを好きになるように、様々な豆知識や時代背景をはさんで解説をする。特に和歌の解説は、和歌を送る人、送られる人の心情を丁寧に読み解く。和歌というある種の恋文を独身らしい四十女の教師に熱心に語られるのはどこか皮肉めいていたが、あまり彼女の恋愛経験の有無を想像しないようにした。

 チャイムが鳴った。「今日はここまでにします。お疲れ様でした」と山岡が礼儀正しくお辞儀をして、教材をまとめて教室を出た。三年生になり、古文の教科担任が担任の山岡になってから古文の授業が好きになったが、今日の授業内容は全く頭に入ってこなかった。

 いや、今日だけじゃない。古文の授業は週五コマあるが、毎週水曜日の二限だけは、どうしても授業に集中できないのだ。

 やっと次は三限だ。水曜の三限は、週一度の体育。

    三年生になってから、進学クラスは他のクラスと違って五教科の授業が増えた。加えて進学クラスは、一限前の特別講義に、放課後の勉強会(会とはいっても名ばかりで、ほとんど強制参加だ)があり、四月からとにかく受験に向けて勉強ばかりさせられる。三年生は全部で六クラスあるが、進学クラスは二年生までのあいだ成績上位だった生徒だけを集めた、唯一の精鋭クラスだ。他のクラスとは違いハイレベルの授業をこなし、毎年多くの生徒を難関大学へ輩出している。

    古文の授業が終わり、三限の体育に備えて女子が更衣室へ移動し始めた。男子用の更衣室はなく、教室に残された男子生徒たちがそれぞれその場でブレザーを脱ぎ、体育着に着替え始めた。進学クラスということもあり、着替えている男子の体は白く華奢な者が多い。躊躇わず制服を脱ぐ者や、下着だけの姿で雑談している者を尻目に、剛は俯きながらてきぱきと体育着を纏った。

    尚吾と浩平と並んで運動場へ出た。二人とはそれほど仲が良いわけではないが、三年生になってからは一緒にいることが多い。学校とはそういうものだ。生涯の友情を誓い合ったわけでも、こいつのためなら命を差し出せると思える仲でなくとも、なんとなく交友関係ができあがりとりあえず時間を共有する。それを青春と呼ぶのなら、青春とはなんとちぎれやすいものだろう。緩く絡み合った糸は、持つ手に力をこめたら簡単にほどけてしまう。もちろん剛には、絡んだ糸を解いて一人で漂うつもりなどないのだけれど。

    運動場の中央部にはすでに男子がかなり集まっていた。男子は陸上競技、女子は室内で体操だ。体育の授業だけは進学クラスだけ特別ということはなく、他の二クラスと合同で行われる。男子生徒の数が少しずつ増えた頃、体育教師の田嶋がジャージ姿でやってきた。

    三クラス分の男子生徒が高校生特有のはしゃぎ方で声をあげている中に、望の姿を探した。隣で尚吾と浩平が、さっきの古文の内容について何か話し合っているようだが耳に入らない。いつも男子の輪の中心にいる望が見当たらずきょろきょろ周囲を探していると、突然足の力が抜けてその場に崩れ落ちた。と思うとすぐ、後ろから笑い声が聞こえた。よく聞き慣れた、力強く通る、望の声だった。

「だっせー。お前これで何回目だよ」

 笑いながらそう言って、望が腕を掴んで起こしてくれた。望は剛と身長がほとんど変わらない一七〇センチほどだ。膝の位置もやはり同じくらいで、よくこうして膝かっくんしては剛をどんくさいと言って笑う。

 日に焼けた望の腕は、背丈は同じくらいなのに剛よりも一回りも二回りも太い。半袖の体育着から伸びたたくましい腕は、ところどころ日焼けで皮が剥けていて痛そうだ。

「勉強ばっかしてるからひ弱なんだよ、お前は」

「野球ばっかしてるよりはマシだと思うけど」

 互いに嫌味が少しもない乾いた調子で言った。これが望流の、あるいは望のいる体育会系の世界での挨拶方法らしい。

「練習試合だったの?」

 望の剥けた皮を撫でて言うと、やめろよと望がくすぐったそうにした。

「そうそう。前の土日で他校との練習試合だった」

「そっか、大変だね」

「夏の引退まであと少しだからな。いまが踏ん張りどきだ」

 頭上からじりじりと照らす太陽に汗が滲んだ。教室から出てまだそれほど時間が経っていないのに、体操着はすでに濡れ始めている。しかし少しも不快ではなかった。一年生、二年生と同じクラスだった望と会えるのは、週一度の体育の時間だけだ。坊主頭の望の額には、とめどなく汗が流れている。焼けた肌に、汗がよく似合っていた。

 授業が始まり準備体操を終えると、クラスごとに短距離走をさせられた。田嶋は体育教師のなかで最も授業がゆるい。規定の運動をさせたあとは、生徒たちを自由に運動させる。自分も生徒に混ざって走ったり談話したりしていて、おそらくそれが田嶋が生徒たちに人気のある理由なのだろう。運動が苦手な剛は疲れない程度に一度だけ走り、残りの時間は運動場の隅にある体育倉庫の日陰に入って涼んだ。体育倉庫の裏には体育館があり、開け放たれた頑丈な扉から、女子の声がこぼれて聞こえてきた。

 太陽の光を反射している運動場がまぶしい。運動部の連中が何度も短距離走をしてはタイムを競っている。その中心にはいつも通り望がいる。剛と同じくらいの身長にも関わらず、日々の鍛練で鍛えられた肉体と大きすぎる笑い声によって、遠くからでもすぐに居場所が分かる。こんな風に望の姿を追うためだけに学校に来ているような気がした。

 男子の輪から望が離れ、まっすぐこちらに向かってきた。手に汗が滲むのは、きっと気温のせいだけではない。体育倉庫がつくる日陰に望が入り、体操着をまくって額の汗を拭った。分厚い腹筋がちらりと見えたが、剛はつとめて平静を装った。

「もう走らないの?」

「もう限界。暑すぎて死にそう」

 隣で胡坐をかく望の足を見た。腕と同様に、剛のそれよりずっと太い。汗で濡れた脛に、運動場の砂がはりついている。たしかに暑さで息を切らしているが、望がここに来たのはそのためだけではない。

    一年生のとき休み時間に読書していると、「なに読んでるの」と望が話しかけてきたことを、いまでもよく覚えている。剛の前の席に後ろ向きで座り込み、読んでいる本の表紙を覗き込んできた。

「あ、灰葉ゆうじゃん」

「知ってるの?」

「読んだことないけど、名前だけは。本好きなの?」

 好きだよ、と言うと「今度灰葉ゆうのおすすめの本貸してよ」と望が言った。ごつくて男臭いのに目だけは幼く、長い睫毛が目立つ顔だと思った。望は分け隔てなく人と接する。そのときもきっと、黙々と読書をしている剛が寂しそうに見えて話しかけてきたのかもしれない。それから望は、読書をしている剛によく話しかけてくるようになった。そのたびに本のタイトルとおすすめを訊いてくるが、望が実際にそれを読んだことは一度もない。望はそうやって、いつでも周囲に気をつかって場を明るくする。そういう男なのだ。

 だからこうして望が剛の隣にやってきたのも、二年間同じクラスだった剛が一人で涼んでいることに気付き、声をかけるためだった。望にとってはただの元クラスメイトだとしても、剛にはそうして望が少しでも自分を気にかけてくれることが嬉しい。

「女子は室内でいいな」

 望が体育館を見上げて言った。

「そういえばお前さ、浅井桜と幼馴染なんだっけ」

 突然桜の名前が出てきて剛は少し驚いた。浅井桜は剛と家が近く、小学校から高校までずっと同じ幼馴染だ。一年生、二年生とクラスは違ったが、三年生になり桜も進学クラスになった。

「そうだけど。なんで?」

「俺さ、桜ちゃんのこと気になってるんだよね」

 照れくさそうに笑う望の表情に胸が痛くなった。いつも遠くから見ている男の表情ではなく、異性を想うときにだけ現れる表情だった。

 桜とは三年生になってからは同じ進学クラスで、家も近いこともあり、たまに並んで帰宅する。以前桜と一緒に運動場前を通り帰っているところを、望は野球部の練習中に見かけたのだという。

「やっぱ彼氏いるのかな。美人だし、賢いし。才色兼備ってやつだよな」

「さあ。桜とは恋愛の話とか、しないから」

 そう答えたそばから、自分の声がひどく無愛想に響いたかもしれないと不安になった。

 馬鹿みたいだ。いや、馬鹿なんだ。桜に嫉妬する権利など、自分にはない。嫉妬は同じ場所に立つ者に湧く感情だ。桜は女で自分は男、その事実は変えようもない。

 背後から声が聞こえた。二、三度声が繰り返され、それが自分を呼ぶ声だと気がついた。

「つよしー!」

 開け放されている体育館の扉の前に桜が立っていた。首にタオルをぶら下げて、水筒を片手に持っている。昔から変わらない少し茶色っぽい髪が、汗で額にはりついている。こっちおいでよ、と何も持っていない方の腕で合図していた。

 体育倉庫裏の小さな階段を昇り桜のもとへいくと、「なにさぼってんの」と小突かれた。さっきまで地面に座り込んでいた望も、いつの間にか剛を追ってきていた。

 三人の間に妙な間ができた。望の話を聞いた限りでは、望と桜はまだ話したこともないようだった。桜が「だれ?」と目で言ってきた。二人を知っている者として仕方なく沈黙を破った。

「こいつ、野球部の望。一年と二年で同じクラスだったんだ」

 いまだ、と言わんばかりに望が口を開いた。

「どうも。河野望です。剛からたまに話聞いてます」

「浅井桜です。私も剛から話に聞いてます。よく剛から名前は聞いてたから、なんだか初めて話した気がしないわ」

 桜が学校用の桜になっていて、つい笑い出しそうになった。小学校から高校まで唯一同じ桜は、剛の前だと素をさらけ出す。容姿端麗なくせにがさつでわがままな女なのだが、剛以外の人間の前では決してそれを出さない。だからこそ男子からは、才色兼備で控えめな女子として割と人気がある。桜に言わせれば、学校で本当の自分を出さないのは「面倒なことに巻き込まれないための生き方」らしい。

「なんだか面白い組み合わせ」

 剛と望を見比べて桜が言った。そうかな、と望がおどけた表情をした。

「だって、バリバリの体育会系とインドア派の剛だから。全然共通の話題なんてなさそうなんだもん」

「えっと、そう、俺も読書好きなんだ。なんだっけあの作家、たしか……」

「灰葉ゆう」

 一年生のとき、初めて望と話すきっかけになった本の作者だ。本なんて読む時間もないくらい野球ばかりしているくせに、桜と話したくて無理に話題を作ろうとしている望に、仕方なく助け船を出した。

「そうなんだ。私も灰葉ゆう好きなの。どの作品が好き?」

 望が嘘をついていることくらい、自分を学校用に演出するのが得意な桜にはすぐにわかっただろう。それなのに桜は望の話に付き合っている。ちらりとこちらを見たときの目だけが、普段の桜の目をしていた。がさつでわがままな、昔からよく知っている幼馴染の目だ。

「あの本なんてタイトルだっけ」

 頭の後ろを掻きながら望が訊いた。普段誰とでも話し、よく笑う望が、異性の前だとこんなにも口下手になると知ることができたのが嬉しかった。しかし同時に、こんなふうにはにかんだ表情を自分の前では一度も見せなかったことに気がついた。気がついた自分に気がつかないようにつとめた。

「〝桜のとき〟だよ」

「ああ、そうそう。それだ。〝桜のとき〟。剛がおすすめしてくれて」

「私も〝桜のとき〟が一番好き。だって私の名前がタイトルに入ってるんだもん」

 桜と望が話すのをぼんやり聞いていたら、運動場で集合の笛の音が鳴った。もうすっかり汗はひいていた。じゃあまた、と運動場に向けて走り出そうとしたとき桜が、

「〝桜のとき〟、今度会う時までにちゃんと読んでね」

と望に言った。運動場の中央には授業終わりの挨拶のために、男子生徒が集まり始めている。駆け足で戻る途中、望の厚い背中を見た。走る速度を上げたらきっと追いつける。両手を伸ばしたらきっと届く。そんなことを考えながら、望の背中を追いかけた。

 

「活字読むのってけっこう疲れるんだな」

 望が口の中のものを咀嚼しながら言った。剛の弁当箱の三倍くらいもある大きな弁当箱には、これでもかというほど白飯とおかずが詰め込まれている。それなのに食べ終わるまでの速さは剛と同じくらいなのだから驚きだ。

 灰葉ゆうの〝桜のとき〟を望に貸してから一週間が経った。体育の授業で桜と話してから、二日に一度の頻度で望が進学クラスの教室へやってきて一緒に昼食をとるようになった。普段一緒に昼休みを過ごしている尚吾と浩平は、窓際の席に座り二人で弁当を広げながら教科書を眺めている。

「もう読み終わった?」

 桜が訊いた。望が昼休みにやってくる日は、自然と桜も机を並べて共に弁当を食べるようになった。読んだことがないくせに見栄を張って〝桜のとき〟が好きだと言った嘘を見抜かれたことが悔しいのか恥ずかしいのか、野球部で忙しい望は、授業中に教科書で隠しながら〝桜のとき〟を急いで読んでいるという。進学クラスの剛と桜、普通クラスの望。この三人の組み合わせを周囲の生徒たちは奇妙に思っているかもしれない。進学クラスの教室に望がいると、その大きな体が存在感を放ちどうしても目立つ。しかし望はそんなこと少しも気にしていない。桜と話せることがとにかく嬉しいようだ。

 いずれにせよ、と剛は冷静な頭で考えた。桜と望が少しずつ距離を縮めているのは、近くにいればなんとなく分かる。しかし桜目当てだとしても、こうして望と一緒にいる時間ができるのはありがたいことだ。

 窓の外で跳ねる陽光、チョークで数式の書かれた黒板、目の前で弁当をかきこむ望の腕。この景色をいつか忘れてしまうかもしれない。忘れるのなら、それでいい。ただ今はこの空間に揺蕩っていたい、大きく息を吸っていたい。剛は空になった弁当箱をしまいながらそう願った。

「やっと半分くらいまで読んだとこ」

 一気に昼食を食べた望が、水筒のお茶を飲んでから言った。

「あんまり小説を読んだことがないからなのかもしれないけど、いまいち物語に入り込めないんだよな。同性愛をテーマにした話だからっていうのもあるかもしれないけど」

「灰葉ゆうって、〝桜のとき〟が文学賞を受賞したときに自分がゲイであることをカミングアウトしてるの。知ってた?」

 望と話すきっかけを上手く見いだせず、どうしてもいつも桜と望の会話が中心になってしまう。人付き合いの上手い二人が会話を弾ませるのは自然なことだった。

「そうなの?灰葉ゆうって名前だから、てっきり女の人なのかと思ってた」

「私も最初はそう思ってた。でも剛に教えてもらったの」

 桜がこちらを見た。ブレザーの大きいリボンが、小さな顔をより小さく見せている。

「灰葉ゆうは、自分がカミングアウトすることで、世界にいる性自認に悩む人々の励みになりたいって思ったんだ。インタビューでそう言ってた」

 ふーん、と望は大して興味なさそうに言って桜を盗み見た。望にとっては〝桜のとき〟そのものよりも、それが繋いだ桜との時間の方がよっぽど重要なのだろう。

「でも男が男を好きになるのってよくわかんねーな」

 そう言った望の声がやたらと響いた気がした。空洞になった体の中に望の声が入り込み、流れ出た。残響が鳴った。

「男とか女とか、好きになるのにそんなの関係ないよ。誰を好きになるかが大切だってことを、灰葉ゆうは書きたかったんじゃないかな」

 予鈴が鳴った。ごめん俺トイレ行くから、と望と桜を残して教室を出た。廊下を歩く生徒たちの声に紛れたら、少しはこの寂しさが薄まってくれるだろうか。すれ違う高校生たちのなかの誰一人として自分を救ってくれる者はいないという確信が胸に満ちた。

 

 夏の夕陽が二つの影を長くアスファルトに映し出している。住宅街で、どこからともなく夕飯の匂いがした。今日の昼休みにやってきた望が、やっと〝桜のとき〟を読み終えたと嬉しそうに話していた姿をふと思い出した。

「剛はどこの大学行きたいの」

 隣を歩く桜が訊いた。今週末には模試があり、その結果をもとに担任の山岡と面談をして受験校を決めることになっている。学校から出て剛と二人になると、いつも通りの桜になっていた。声が少しだけ低くなり、大股で歩いている。地面を叩くローファーの音がうるさい。それでも学校で話す桜より、小さな頃から親しんできたこっちの桜の方がずっと落ち着く。幼馴染という、男女の垣根のない関係が心地よい。

「東京の大学を受験しようと思ってる」

「初耳」

「だっていま初めて言ったんだもん」

「なんで東京なのよ。この街から離れたいの?」

 すぐに言葉が出てこなかった。四月から、東京の大学を受験しようと決心していた。その理由は自分でも分からない。

 住宅街の中にぽつりとある公園が見えた。数人の小学生たちが遊んでいる。ふと、彼らと同じくらいの歳の頃を思い出した。駆け回って遊ぶ男子の群れに加わるのが苦手だった。それよりも桜と砂場で遊ぶ方が、ずっと楽しかった。

「この街とか、家族とか、好きじゃないの?」

 珍しく桜の声が弱々しかった。その言葉を聞いた瞬間、気がついた。

 この街も、家族も、大好きだ。大好きだからこそ、離れたいんだ。誰も自分を知らない土地で自分を生きたい。自分を隠しながら生きるのは、ときどき、どうしようもなく苦しい。

 そんなことないよ、と答えると、桜が安心した表情を浮かべた。

「そういえば望くんに告白された」

 突然の言葉に戸惑った。無意識にきつく唇を噛みしめ、自分の心に問うた。大丈夫、そんなに傷ついていない。いつかこんな日が来る気がしていた。この胸の痛みは、ちゃんと予感していたものだ。

「望、なんて言ってたの」

「最後の大会でホームラン打てたら、俺と付き合ってくれって。馬鹿みたいだよね、そんな漫画みたいな告白の仕方」

 望らしいと思った。

「桜は望のこと、どう思うの」

「私も望くんのこと、好きだと思う。底抜けに明るくて太陽みたいな人。それなのにその光を、自分のためじゃなく人のためだけに放つことしか考えてない。時々暑苦しいけど、一度知ってしまったら忘れられない温度だと思う」

 桜が言った言葉は、そっくりそのまま剛が望を好きな理由と同じだった。同じだという事実に安心した。

「剛と望くんって、ほんと不思議な組み合わせ。二人の名前を入れ替えたら、それぞれの名前と性格がぴったり合いそう」

 そうかもしれない。剛が望に、望が剛になった姿を想像した。名前が入れ替わっても望を好きになるのだろうか。いや、そのとき相手は剛になるのか、と考えだしたら、頭の中が散らかった。おかしくて、桜と二人で笑った。

「名前なんかじゃその人のこと分からないもんだよ。灰葉ゆうだって、そうだったろう」

 たしかに、と桜が言った。

 長い夕方がいつまでも続いた。剛の家の前までたどり着くと、じゃあね、と桜が歩いていった。桜の家は剛の家の三軒向こうだ。夕陽に向かって歩く桜の背中が、歌っているように見えた。

 

 球場はどこを見ても人で溢れていた。みな帽子を被り、肩からタオルを下げている。隣で日焼け止めを塗っている桜から、日焼け止めを分けてもらい腕や首に塗った。応援団やチアダンス部の声が、青い絵の具を塗った空に吸い込まれていく。

「ほら、望くんの番だよ」

 桜がはしゃいで立ち上がった。野球のルールはよく知らないが、どうやら望のチームは順調にペースを掴んでいるらしいことが、応援に駆け付けた周囲の生徒や保護者や卒業生たちの声色から分かった。

 バッターボックスに立った望が大きく見えた。桜と二人で、じっと見守る。相手チームのピッチャーと望の視線がぶつかっている。ボールが投げられた瞬間、球場を風が吹き抜けていった。

 

 

 

 

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    夏が終わった。早かった。

    いつも高望みをしてことごとく失敗する。じっと陰鬱と向かい合う。何もない部屋は懐かしい匂いに満ちている。いつか摘んだ花の匂いだ。

    どうして孤独を舐めなければいけないのか。

    誰かが理由を知っていると話していた。話の中身は覚えていない。

    季節が巡った。一年ぶりの秋がきた。気持ちを切り替えられない。雪がちらつく頃、新しい恋人と寝転がっているかもしれない。

    ただ、全てが季節のせいだ。